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006 あおい荘の一日

last update Last Updated: 2025-05-20 17:00:41

「嫌です! 絶対に嫌です!」

「あおい、いつまでも子供みたいなことを言うんじゃない。風見の家にとって、この縁談がどれだけ大切なことかぐらい、お前にも分かるだろう」

「嫌な物は嫌です! あんな人と結婚なんて、絶対にしないです!」

「これはお前一人の問題じゃないんだ。頼むから聞き分けておくれ」

「姉様みたいにですか? 私たちは父様の道具じゃないです!」

「風見の家に生まれて、そんな勝手が許されると思ってるのか」

「もう、父様なんて知りませんです! 私、この家を出ますです!」

「風見の家を捨てると言うのか。この家を出て、お前一人でどうやって生きていくというのだ」

「私だって、もう子供じゃないんです! 一人でだって、生きていけますです!」

「待ちなさい! あおい、あおい!」

 * * *

「あおいちゃん……あおいちゃん……」

「風見の家なんか……もう知らないです……」

「おーい、あおいちゃん、起きてー。朝だよー」

「え……」

 直希の声に、あおいが夢から覚める。

「おはよう、お嬢様。随分うなされてたけど、怖い夢でも見たのかな」

 そう言ってあおいの頭を撫でる。その温もりに、あおいの瞳から涙が溢れてきた。

「え? え? あおいちゃん、大丈夫?」

「うええええんっ!」

 泣きながら、直希を思いきり抱き締めた。

 直希の顔が、あおいのふくよかな胸に押し付けられる。

「ふがふが……」

「直希さん、直希さん! ずっとここに置いてくださいです、うええええんっ」

「ふがふが……」

 * * *

「あ……あのぉ、さっきは&hel

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